AI相場はバブルなのか
先週はニューヨークにて、多くの金融機関関係者と会ってきました。
そのなかでも印象に残ったのが、AI相場はバブルなのか。最近、この議論を目にする機会が一段と増えたことです。
興味深いのは、株式の専門家と債券の専門家では、同じAI投資を見ていても、問題意識が異なりがちなことです。
株式市場では、「巨額のAI投資が、どこまで売上や利益の成長につながるのか」が中心的な論点です。
一方、債券市場では、「その巨額投資のお金を誰が出し、最終的に誰がリスクを負担するのか」という点がより強く意識されます。
実際、米国のハイパースケーラーによる社債発行は急増しており、巨額のAI投資は株式市場だけでなく、債券市場の価格形成にも影響を及ぼし始めています。
AIバブル論の根拠の一つが、「設備投資が度を超えて大きい」というものです。確かに、現在のAIデータセンター投資は歴史的な規模です。
ただし、その資金の出し手は以前より複雑になっています。企業自身のキャッシュだけではなく、社債、リース、顧客からの前払い、プロジェクトファイナンス、取引先による資金支援など、資金調達手段が多様化しています。
したがって今後は、「この企業は設備投資をしすぎているか」だけではなく、「その設備投資の最終的なリスクが、金融市場のどこへ移っているのか」まで見なければ、AI投資の実態を理解しにくくなります。
これは、AI投資のリスクがなくなったという意味ではありません。むしろ、一企業に集中していたリスクが、債券、金融機関、投資家、取引先など様々な主体へ分散され、少し見えにくくなってきたと考えた方がよいでしょう。
さらに3年先を考えることを難しくしているのが、中国勢を含めた競争の激化です。米国ではOpenAI、Anthropic、Google、Meta、xAIなどが競争し、中国ではDeepSeekをはじめとする企業の存在感が高まっています。その背後では、半導体、クラウド、データセンター、人材を巡る競争も加速しています。
AIが人類社会に広がっていく可能性は高い。しかし、3年後の勝者が誰なのかは、むしろ以前より分かりにくくなっている。
私は、いよいよAIの「戦国時代」に入ったと考えています。しかも、OpenAIやAnthropic自身が、AIの急速な進歩が人類社会へもたらすリスクや安全性について警鐘を鳴らしています。
AIが普及することと、現在のAI関連企業の株価がそのまま上昇し続けることは、まったく別の話です。
こうした環境で私が重要だと考えているのが、リスクに対してどれだけのリターンを得られるのか、そして、その投資が成功する確率をどこまで高められるのか、という視点です。
資産形成を考える際、私は一つの考え方として、「リスク対比のリターン(リターン÷リスク)×リターン獲得(投資成功)確率」をできるだけ高めることを重視しています。
これは厳密な金融工学上の計算式というより、投資方法を選ぶ際の考え方です。高いリターンだけを追うのではなく、損失を限定しながら、成果を得られるシナリオをできるだけ増やすことを目指します。
その実践手段の一つが、これまでコラムやセミナーで繰り返しご紹介してきたブル・プット・スプレッドです。
株価が上昇しなければ利益を得られない現物株とは異なり、ブル・プット・スプレッドでは、株価が上昇する、横ばいで推移する、あるいは多少下落する、といった複数のシナリオで収益を得られる可能性があります。さらに、下側のプットを買うことで最大損失を事前に限定できます。
これまでのウィブル証券のセミナーでは、ブル・プット・スプレッドを使い、必要証拠金に対する単純年率換算で50~150%程度となるケースもシミュレーションとしてご紹介してきました。
もちろん、これは短期間のプレミアム収入を機械的に年率換算した数値であり、年間を通じて50~150%の収益が得られることを意味するものではありません。
むしろ、重要なのは高い資本効率をそのままレバレッジ拡大に使わないことです。例えば、必要証拠金が100万円の取引に対して、300万円程度の現金を用意して実践すれば、相当な余力を残すことができます。
必要証拠金ベースでは高い収益率を狙える戦略であっても、資産全体では十分な現金バッファーを持つ。そのように使うことで、年率10%台程度の、より保守的な資産形成を目指すことも可能だと考えています。
多少の下落相場であっても実施できること、毎日の株価の上下に一喜一憂する必要が比較的小さいこと、最大損失をあらかじめ限定できること、そして現金を十分残しながら運用できること。これらは、長期的な資産形成にとって大きな利点です。
もちろん、利益が保証されるものではありません。個別銘柄の急落やボラティリティの変化などによって損失が生じる可能性があり、余裕資金と適切なポジション量で取り組むことが前提です。
AI戦国時代では、3年後の勝者を完璧に当てることは難しいでしょう。だからこそ、「何を買うか」だけでなく、「どう稼ぐか」も設計することが重要だと考えています。
現物株、カバードコール、ターゲット・バイ、ブル・プット・スプレッド。それぞれ利益が生まれる条件が違います。そして、投資に使う時間、心理的な負担、必要な現金、許容できる損失も人によって違います。
私が「志村式資産形成」で追求しているのは、単に高いリターンを目指すことではありません。
リスク対比でのリターンを高める。
投資が成功する確率を高める。
必要な時間とストレスをできるだけ減らす。
この3つを組み合わせ、いかに効率よく実行できるかを追求することで、一人でも多くの投資家の方に、誰かの相場予想を追い続けるのではなく、自分なりの資産形成術を確立していただきたいと思っています。
AI相場がバブルなのか。現時点では、「バブルだ」「バブルではない」と二択で考える必要はないと思います。AI需要は実体経済に広がっていますが、設備投資の規模は巨大化し、資金調達構造は複雑になり、さらに中国勢を含めた競争も激しくなっています。
AIが社会を変える可能性が高いからこそ、どの企業がその価値を最終的に獲得するのかは、むしろ分かりにくくなっている。
こういう時こそ、勝者を一社に決め打ちするのではなく、企業を選び、価格を選び、そして「稼ぎ方」も分散する。未来を正確に当てなくても、リスクとリターン、そして成功確率を自分で設計できる投資の形を持っておくことが重要だと考えています。
志村暢彦
追伸
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