9月のS&P500指数は、月間で約0.5%下落しました。
ただ、指数全体の数字だけを見ていると、今の米国株市場で起きていることを十分には捉えられません。
3月から9月までのセクター別の動きを振り返ると、その時々で市場をけん引する業種が大きく入れ替わっています。情報技術や通信が大きく上昇する月がある一方、その翌月には急速に勢いを失う。金融など、それまで目立たなかったセクターが相対的に強くなる局面もありました。

(出所:Bloombergを基に作成)
つまり、S&P500という一つの指数の中でも、実際にはかなり大きな資金移動が起きています。これまで以上に、「市場全体が上がるか下がるか」だけでは捉えにくい相場になってきました。
10月2日に発表された9月の米雇用統計では、非農業部門雇用者数が前月比2.9万人増にとどまり、市場予想の9万人程度を大きく下回りました。失業率も4.2%へ上昇しました。
ところが、その日のS&P500指数は0.7%上昇し、ナスダック総合指数は1.2%上昇しました。弱い雇用統計を受け、10月の追加利上げ観測が後退したことが、株式市場にはプラスに働いたためです。
経済にとって悪いニュースが、株式市場にとっては良いニュースになる。これは市場では珍しいことではありません。重要なのは、株価が何を重視して動くのか、そのテーマが比較的短い期間で変わるということです。
ある時は企業業績、ある時は雇用、インフレ、金利、原油価格、そしてAI投資。その時々で市場が最も重視する材料は変わります。
この変化を短期的に読み切り、相場の上げ下げを取り続けようとすると、どうしても相場の後追いになりやすくなります。一時的に勝率が上がることはあっても、その状態を継続することは容易ではありません。だからこそ私は、「次に何が上がるか」を当て続けることよりも、さまざまな市場環境の中でリターンを積み上げられる仕組みを持つことの方が重要だと考えています。
そして、この考え方をさらに重要にしているのが、AIの急速な進化です。
7月以降のわずか3か月を振り返っても、AIを巡る議論は大きく変わりました。単に「どのモデルの性能が高いか」「AI関連企業の業績がどこまで伸びるか」という話から、自律的に行動するAIと人間社会が、どのように共存していくのかという段階に入りつつあります。
象徴的だったのが、 Open AIの社内サイバーセキュリティ評価中に、研究用モデルがインターネットから隔離するための管理策を回避し、オープンAIの社内研究インフラとハギング・フェイスのシステムの一部にアクセスした事象です。オープンAI自身も、この出来事を高度なAIエージェントの制御を考えるうえでの「警告」と位置づけています。
この出来事の本質は、AIに「悪意」があったかどうかではありません。最終的な目的を達成するために、AIが自ら経路を考え、人間が想定していなかった行動まで選択したことにあります。
後世から振り返ったとき、この出来事がAIと人間社会の関係を考える一つのターニングポイントとして語られる可能性があると、私はみています。
この延長線上では、AIが目的を達成する過程で、必要なサービスを購入し、支払いを行い、さらにはサービスを提供して対価を受け取る世界も現実味を増してきます。
すでにAIエージェントが人や企業に代わって取引を行う「エージェンティック・コマース」の基盤整備は始まっており、VisaなどはAIとステーブルコインを組み合わせた決済インフラの開発を進めています。AIが自律的に予算を持ち、目的達成のためにお金を使う仕組みは、もはや単なる未来予想ではありません。
AIが「考える」だけでなく、経済主体としてお金を受け取り、使う。AI × 金融、そしてステーブルコインを巡る議論は、今後さらに本格化していくと想定しています。
さらに事態を複雑にするのが、イノベーションと民主主義の時間軸の違いです。
米国では11月に中間選挙を控えています。また、世界を見ても政治的に重要な局面を迎えている国があります。民主主義では、新しい社会のあり方について、多くの人が理解し、議論し、合意を形成していく必要があります。一方で、AIの技術革新は、それをはるかに上回る速度で進んでいます。
しかも、これから起きる変化の多くは、まだ社会全体で具体的にイメージされているわけではありません。まだ一部の人しか想像できていない未来について、長期的なビジョンを共有し、社会として方向性をまとめるには時間がかかります。
この時間軸のずれが続けば、制度や社会の合意形成を待つより先に、資本、計算資源、人材、技術を持つ企業の意思決定が、社会の方向性を大きく左右する局面が増えていくと考えています。
では、こうした時代に個人投資家はどうすればよいのでしょうか。
私は、利益を拡大し続ける企業から、投資を通じて自分たちもお金を受け取る仕組みを持つことが、これまで以上に重要になると考えています。
AIによって生産性が高まり、一部の企業が大きく利益を伸ばしても、その恩恵がすべての人に同じように届くわけではありません。投資からの収益を持たない家計では、企業利益や資産価格が伸びてもその恩恵を受けにくく、相対的に暮らしが先細りになる人が増える可能性があります。
逆に言えば、サステナブルに投資からのリターンを積み上げる仕組みを自分で持つことができれば、変化の大きな時代でも、その成長の果実を自分の生活に取り込むことができます。
そのためには、まず自分が取ることのできるリスク、つまり最大でどこまでの損失を許容できるのかを定義する必要があります。
個別株オプション取引は、スプレッドなどの組み合わせを活用することで、想定する最大損失や損益構造を事前に設計しながらリターンを狙うことができます。相場の方向を毎回当てることよりも、「どこまでのリスクを取り、その対価としてどの程度のリターンを目指すのか」を自分で設計する。その点に、個別株オプション取引を資産形成に活用する大きな意味があると考えています。
もちろん、誰かの方法をそのまま真似する必要はありません。投資家一人ひとりが、自分の資産、年齢、収入、投資経験、許容できるリスクを踏まえ、自分自身の「○○式資産形成」をつくっていく。そうした仕組みを持つことができれば、変化の大きな時代であっても、将来をより前向きに描きやすくなるのではないでしょうか。
2025年1月から続けてきた、定例コラム【米国株オプション投資 成功への道】は今回が最終回となります。
このコラムや定例ウェビナーをきっかけに、個別株オプションという新しい選択肢を知り、自分自身の資産形成の仕組みについて考えてくださる投資家が生まれたこと、そして長くご愛読・ご視聴いただいたことに、心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。
またどこかで皆さまとお目にかかれる未来を、心待ちにしています。
末筆ながら、皆さまの今後のご成功と幸せを心より祈念し、筆を置きたいと思います。
志村暢彦
追伸
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